学習成績概評の基本となる評定はすべての科目が対象で、その平均値が記されます。主要5教科については予備校や塾でも勉強し、体育や選択となる音楽や美術はまじめに取り組むことで最低限、評定に悪い影響を与えない成績は保てるかもしれません。
では、必履修となった「情報Ⅰ」についてはどうでしょうか。
総合型選抜でも共通テストが必要な大学はありますし、その共通テストは2025年度からは情報Ⅰが試験科目となっています。もちろん情報Ⅰの成績は評定平均値に影響します。
今回の教育トピックでは、高校「情報Ⅰ」の授業や内容、定期テスト対策や勉強法についてを取り上げます。そして実はもっとも大切な「情報Ⅰはただ単に“大学に入るために勉強するもの”ではなく、やがて社会人になったときに必要となる『力』の基礎となること」についても、解説します。
高校の情報Ⅰ「内容は?」
引用:高等学校学習指導要領情報編/文部科科学省高校情報Ⅰは次の4分野について知識とスキルの両方を学びます。
- 情報社会の問題解決(情報モラル・法規や制度)
- コミュニケーションと情報デザイン
- コンピュータとプログラミング
- 情報通信ネットワークとデータの活用
高校情報Ⅰの授業内容とは
情報社会の問題解決 (情報モラル・法規や制度) |
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コミュニケーションと情報デザイン |
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コンピュータとプログラミング |
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情報通信ネットワークとデータの活用 |
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上記は学ぶポイントをまとめてはいますが、全部を網羅はしていません。
知識の量も非常に多く、実践的なスキルとしてはプログラミング言語の基本を習得、文書作成ソフトウエアを使用したレポート作成、プレゼンテーション力など、今後必須とされる、さまざまな技術を学びます。
参考:高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材/文部科学省
高校「情報Ⅰ」で学ぶプログラミング言語について
教科書で使用されているプログラミング言語- Python
- VBA
- JavaScript
- Scratch
この中でもScratchは、小学生向けプログラミングスクールでも使用されていることが多い、非常にわかりやすい指示ブロックを組み合わせるビジュアル言語です。各教科書によって使用する言語は違います。
共通テストでは、「どのプログラミング言語で学んでも公平になるように、擬似言語」を使用しています。
擬似言語とは、擬似的なプログラミング言語で、共通テストでは一般的な記述も用いた独自の擬似言語が使われます。
4つのプログラミング言語と共通テストの問題について、興味深い論文があります。4つのクラスにそれぞれ、4つのプログラミング言語を同じカリキュラムで学んでもらい、共通テストの試作問題を解いてもらっています。
ここでは論文に掲載されていた例文を抜粋させていただきました。左側がPython、あるいはScratch、右側が擬似言語です。つまり共通テストでは右側の擬似言語(正確には独自の擬似言語としているので、共通テストで使われる擬似言語は多少違ったものになる可能性がある)での出題になります。
引用:情報 I におけるプログラミング言語の選択が 大学入学共通テストの解答に及ぼす影響/井手 広康
つまり、授業でそれぞれプログラミング言語を使用し学んだことを、擬似言語の「テスト問題」でパッと変換して考えられるかがひとつの鍵になります。
この論文では、Scratchを使うブロック型のプログラミングで学んだ場合、擬似言語の問いを読むことそのものに時間がかかってしまっているのではないか、と推察しています。一方でScratchを学んでいると、プログラムの構造や意味に関する問題は解きやすいメリットがあることも言及しています。
どの言語を学んでも大きな「テスト結果の差」はなかったものの、要するに「独自の擬似言語」と「学んでいるプログラミング言語」と、表記が違うケースで戸惑うことが多い点が指摘されています。
Pythonをはじめとしたプログラミング言語をただ単に学ぶだけでなく、共通テストも見据えるのであれば、どの言語にも対応できるくらいにはプログラミングのスキルを身につけておくことが大切と言えるでしょう。
参考:情報 I におけるプログラミング言語の選択が 大学入学共通テストの解答に及ぼす影響/井手 広康
総合型選抜・学校型推薦(指定校推薦)における情報Ⅰの学習とメリットとは
- 評定平均値の底上げ
- 培ったプレゼンテーション力が強みになる
総合型選抜(旧AO入試)や学校型推薦を狙っている高校生も多いと思いますが、重要になるのが学習成績概評(評定平均値・課外活動の記録・出欠・特別な表彰や資格など)です。特に評定は、校内選考では重視されると言われています。その評定は高3になってから上げるのは至難の業です。
一般的に情報Ⅰは高校1年〜2年で学びますが、評定を固めるのに重要なのは高1と高2の成績、つまり情報Ⅰの成績もおろそかにはできません。
また、総合型選抜や学校型推薦では、一般的な面接だけでなく、口頭試問・グループディスカッション・課題に対するプレゼンテーションといった、自ら考え、考えを支える根拠を整理して伝え、相手に「なるほど」と思わせるようなコミュニケーション・プレゼンテーション力が問われることが増えています。
そうした意味からも、情報Ⅰで学ぶことは大学入試において大きな武器になるでしょう。
東農大SAIL入試(総合型選抜)の一例
では具体的に、東京農業大学SAIL入試(総合選抜型)「知能情報システム工学部」の募集要項を見てみましょう。一次選考では志望理由書の他に特別活動レポートが必要です。二次選考になると、レポートに関するプレゼンテーションに関連した質疑応答があることがわかります。
特別活動レポートの内容に関するプレゼンテーションと、その内容に関する質疑応答を通した問題解決能力や論理的思考力の確認および数学に関する基礎能力の確認を含む面接を行い、特別活動に対する理解や論理の進め方など、情報工学や電気電子工 学に対する潜在的な能力を総合的に評価します。
引用:令和6(2024)年度総合型選抜学生募集要項/東京農業大学
他にも多くの大学における総合型選抜では、在学中の活動に関するレポートとプレゼンテーション、あるいは当日に課題が出され小論文を書く、ディスカッションを行うなど各校それぞれが学部とアドミッションポリシーにマッチした特色ある選考が行われています。
高校における他の授業でも、もちろんプレゼンの機会もあるでしょう。しかし情報Ⅰで、わかりやすい資料作成からデータの分析、発表といった一連のスキルを身につけることで、このような試験の対策ともなります。
将来に役立つ力の「基礎の基礎」が詰まっている情報Ⅰ
この後に、高校情報Ⅰの勉強法を紹介しますが、その前に大切なことをひとつ。
「情報Ⅰ」は“大学入試科目となったから重要”なのではありません!
もちろん現役の高校生は、「理想を言っても意味がない、共通テストの対策や評定アップのためにも情報Ⅰの成績を底上げしておきたいのだ!」と思うかもしれません。
ただ、勉強するときに少しだけ、情報Ⅰが持つ本来の意味を考えてほしいのです。
Society5.0を生き抜く力(問題の発見・ 解決に向けて情報と情報技術を活用するための知識及び技能を身に付け、実際に活用する力を養う)をつける、という大きな目標があるのです。
2022年4月から高校で義務化された「金融教育」と共に「情報科」は、これからの時代を生き抜くために必要な知識とスキルであり、その力を持っている人・持っていない人の「格差」がより広がると言われています。
高校生になれば、大学から就職と将来がだいぶリアルに見えてくることでしょう。どんな進路・将来をめざすにせよ、情報を検索したり、正しい情報を選択したり、筋道をたてて自分の考えを組み立て、それを周囲にわかりやすく発信することが必要です。
わたし達はほとんどすべての環境でコンピュータが活用されている中で暮らしていることも忘れてはなりません。
今回の教育トピックでは「情報Ⅰを学ぶことは大学入試のポイントのひとつですよ!」と解説しています。
- 実際問題として入試や評定アップのためにも情報Ⅰの勉強はおろそかにできないよね
- でも情報Ⅰで学ぶ基礎的な情報能力やITスキルは実はもっと将来のために重要なものなんだよ
この2つを並行して伝えたいのです。情報が入試対策のためだけの「勉強」にならないように、心の片隅に「今、情報Ⅰで学んでいるさまざまなことが、いずれ自分の生き方を支える力になる」ことも、どうぞ忘れないでください。
高校「情報Ⅰ」の勉強法
情報Ⅰは暗記すれば成績はアップする?
よく情報Ⅰについて「ただの暗記科目になってしまうと意味がない」という声を耳にします。しかし、成績がつく以上はテストがあり、情報Ⅰのテストでは暗記することで解ける問題が多いのも事実です。テスト範囲のポイントをまとめて(ちょうど地歴公民の暗記学習のように!)覚えておけば、特別に難解な問題はないようです。
問題集も出揃ってきていますし、教科書やワークシートを活用してもいいでしょう。情報Ⅰは知識偏重ではないとしていますが、用語を覚えなくてはそもそも内容も理解できないわけで、この辺りは割り切って「問題集」「用語集」なども使い、ガンガン覚えましょう。
ただし、情報科目に関しては特に担当教師によって、どこまで深く学ぶかが違います。
先生がオリジナルの授業展開をしている場合には、体験したワーク(たとえば、課題を見つけて解決方法をプレゼンする、データを分析しレポートを作る、ある商品を売るためのサイト作成をするなど)が試験範囲になるので暗記だけでは対応できません。それがまさに「情報Ⅰは知識偏重ではない」とされる所以です。
どのようにワークを達成したのか、そのワークで情報の何を学ばせようとしたのか目的を把握し、それに合わせた情報の知識は暗記し、体験したことで得た学びを自分の言葉で簡潔に表現できるようにしておきましょう。
実際の共通テストでも、暗記だけでは解答できない「思考力が必要」とされる問題が出題されます。
情報Ⅰに必要とされる数学の知識
引用:高等学校教科書のご案内/東京書籍上記は情報Ⅰの教科書からの抜粋です。パッと問題を見ると数学が苦手な場合には、嫌な予感がしそうですね。
数学Ⅰで学ぶ「散布図・標準偏差」や、数学Aで学ぶ「場合の数と確率」、あるいは数学Bにおける「統計的な推測や数理的問題解決」は、情報Ⅰと深く関係する内容です。情報を攻略するには、数学の知識がベースとして必要です。
数研出版の情報Ⅰ教科書も見てみましょう。数学との関連性を表示しています。
引用:高校教科書のご案内/チャート式の数研出版
いずれにしても情報Ⅰの実力をつけるには数学の理解が必要ですから、しっかり学ぶようにしましょう。
参考:高等学校「数学I」「情報I」「理数探究基礎」のカリキュラムデザインとその実践
プログラミング知識とスキルはなるべく早くから基礎を学んでおく
引用:大学入学共通テスト「情報Ⅰ」体験模試/株式会社ナガセ(東進ハイスクール・東進衛星予備校)情報Ⅰでは、実際にプログラムを組む学習も行います。予備校で有名な東進では、情報Ⅰの体験模試を行った結果を発表しています。その結果を見ると、実際にコードに落として使えるかを問うプログラミングの問題に苦戦している生徒が多いのがわかります。
学校でたっぷりと情報Ⅰの授業時間が確保されていればいいのですが、実際は駆け足で教科書をこなしていかないと網羅できない量と範囲です。その中でプログラミングは重要な位置づけにはなっていますが、これらを実践しながら覚える時間が足りないのは残念な点です。
小学校時代からScratchやロボット・プログラミングの体験を通して、その概念や基本的なスキルを身に着けている場合には「楽勝」かもしれませんが、中学の技術科等でもあまりプログラムに触れてきていない場合には不安が残ります。
プログラミングはそれこそ動画解説も多く出ていますし、簡単に挑戦できるアプリもたくさんあります。また、隙間時間を利用してプログラミングはもとより、情報モラルやデータ解析、データサイエンス等まで学べるオンラインスクールもあります。
手を動かして覚えるのがプログラミングの基本。少しでも余裕のある高1〜高2の時点で、プログラミングの基礎と基本的なスキルを身につけておけば後々安心です。
最後に、高校生向けの情報・プログラミングが学べるスクールを5つピックアップ、簡単な解説も掲載していますので、参考にしてください。
高校生向け「情報・プログラミング」が学べるオンラインスクール5選
スターAI・情報塾 (オンライン) |
・情報活用編 ・AI活用編 |
プログラミングだけでなく、情報Ⅰの知識やスキルもカバー 受験対策にも有効 |
Life is Tech (オンライン) |
・AIクリエイティブコース ・Webデザインコース 他 |
中高生向けプログラミングスクールの草分け 複数のコースがあり、プログラミングの基本から アルゴリズムなど幅広く学べる |
N code Labo (オンライン・スクール) |
・AI/機械学習 ・ゲーム制作 |
完全個別指導 プログラミング全般、PythonやAIについて学べる |
鎌倉駅前プログラミング教室 for Kids (スクール) |
・高校科目「情報Ⅰ」対策コース |
ライフイズテックの教材を使用した「情報Ⅰ」に特化 したカリキュラムで学べる |
Schole (オンライン) |
・オリジナルコース | マンツーマン 東大卒ソフトウェアエンジニア経験者 Scratchを入口にして短期間にPython へ移行しプログラミング・情報の基礎を学ぶ 情報Ⅰの速習も可能 |
女子高校生の体験談もあります!↓
(取材)スターAI・情報塾 受講生インタビュー|中高生からAI・情報が学べる!気になる内容をレポート
スタープログラミングスクールが中学生・高校生向けに開講した「スターAI・情報塾」。オンラインで受講できるだけでなく、スタープログラミングスクールの教室を自習室代わりに使用しながら学べるとあって、日々忙しい中高生に魅力的なスクールです。気になる内容について、中学生・高校生の受講生に取材。さらには担任の先生にもお話を伺いました。
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え?だったら学校ではPythonを学んだけど、共通テストは違う言語だったらどーするの!?