コンピュータ技術の著しい進歩や、ネットワーク上のパソコンが協力し合うような新技術「Hadoop(ハドゥープ)」が開発されたことで、従来は考えられなかったほどの巨大なデータを使った分析が行えるようになっています。
これにより、社会の動向の微妙な変化も捉えられるようになりました。
ビッグデータの発展は、IT技術の進歩による「世の中の見え方」革命とも言えるでしょう。
この記事ではビッグデータを取り巻く動向やSNSとの関係、メリット・リスクについて詳しく解説します。
ビッグデータで「世の中のすべて」が見える?
人々や社会の進む方向をさぐるとき、これまでは「統計」という手法がとられていました。統計とは「世の中の一部を見て、全体を推測する」手法です。
具体的には、アンケート調査などが分かりやすいですね。
お客さんが1万人いたとして、全員から意見を聞くのは現実的ではありません。
そこで、一部のお客さんにアンケートをとって消費者動向をさぐるわけです。
統計的手法の欠点は、統計で出た結果と現実にギャップ(差)が出てしまうことです。
たとえば、世の中にどれくらい左利きの人がいるか調べたいとしましょう。
ランダムに10人連れてきたとしても、その全員が左利きだった場合「人間はみんな左利きなんだ!」と誤った予測を立ててしまう可能性があります。
一部の人を抜き出す以上、現実とのギャップをゼロにはできないのです。
一方、ビッグデータを使えば、世の中の人々すべての動向を踏まえて分析することも可能になります。
たとえば、高速道路の混雑状況を分析するとき、従来は「1日ごと、1時間ごとの通行量から予測する」手法がとられていました。
ビッグデータを使えば「各インターチェンジから入場したすべての車両が、どのサービスエリアを利用し、どのインターチェンジから出たか」の実績をもとにして混雑対策を行うことができます。
当然、精度は飛躍的に向上します。
巨大なデータで「すべて」を追跡し、対応していける……
それがビッグデータというわけです。
SNSとビッグデータの切っても切れない関係とは
毎日、全世界の人々が「見たもの」「聞いたもの」「買ったもの」を記録し、記事やさまざまな商品サービスに「いいね」を押すSNS。蓄積されたSNSのデータは、歴史上類を見ないビッグデータとなっています。
1日に1億以上といわれる書き込みの中には消費者の本音があふれています。
これをデータ化し分析していけば、従来の市場調査では得られない顧客の不満や希望を知ることができるでしょう。
それによるユーザーの行動と広告のマッチングは、いまやSNSを運営する企業の最大の収入源とも言われています。
一方で、個人情報そのものである購入記録が流出することによって起こるプライバシー侵害のリスクも指摘されています。
集めた個人情報をSNS運営企業が利用することを制限すべきという議論もあります。
AIの登場でビッグデータはどう変わった?
ビッグデータの応用をめざましく進歩させたのが人工知能(AI)の技術です。AIを利用すると、SNSユーザーの書き込みを「好感」「不快感」「どちらかといえば好感」……などに分類できます。
統計を取るよりも詳しい形で「同じような感じ方、考え方を別の言葉で語っている」人々の声を集められるのです。
よりミクロで、よりマクロな社会の全体図が示されると言っていいでしょう。
「いま何が起こっているか」だけでなく「その背景にどのような感情や好みがあるのか」まで分析できるのですから、驚きですね。
ビッグデータのリスクとは?
ビッグデータの得意とすることは、マッチング。たとえば「新しいアクセサリーを買った」人が「口臭除去剤」を買い「高級ホテルのレストランで食事をする」……
そんな傾向を「見える化する」ことができるのです。
この予測を使い、「アクセサリーを買った」人に対して「口臭除去剤」や「高級ホテル」の情報を提供することも。タイムリーに情報とマッチングすることができ、精度の高いマーケティングセールスができます。
ただ、気をつけたいのがプライバシーの問題。
「人の気持ち」を先読みするようなマーケティングが発展しすぎると、ユーザー側は次々と商品をおすすめされるようになります。
おすすめの精度が上がりすぎると、自分の生活が丸裸になり先回りされているようで気持ち悪さを感じる人もいるでしょう。
企業にとっては、プライバシーと便利さのバランスをどう取るかが今後の課題と言えそうです。
ビッグデータの具体的な利用例は?
携帯電話キャリア:潜在的な顧客の不満を知る
Twitterで発信されるある携帯電話キャリアでは、実際にTwitterに投稿された「つながりにくい」などの不満を収集しています。これによって電波送信設備の設置場所を決め、「つながりやすく」した会社もあります。
自動車メーカー:安全運転をサポート
ある自動車メーカーでは、通信機能を備えたカーナビのデータを毎月2億km以上にもわたって収集しています。これを分析することで、急ブレーキを踏むことが多いポイント、事故多発の場所を探り出し、安全運転をサポートする情報として提供しています。
ネットニュース配信企業:精度の高い選挙結果予測を実現
検索サイトにおける候補者や政党名による検索数と検索内容の検討を行って、以前とは比較にならないほどに正確なな選挙予測を行ったネットニュース配信企業があります。病院:医師の判断をサポート
スマホのアプリでは何百万人が健康管理を行っています。そのデータを集計・分析することで「生命に関わる病気の前兆」「回復期におけるリハビリテーションの最適パターン」など、医師の判断を助ける情報が形作られています。
放送局:気象予報をより確かに
台風の進路予測や降水確率、最高最低温度の予測……などがこれにあたります。天気図・温度・湿度・風向・風速などのデータを蓄積し、過去のパターンと照合することで、気象予報の精度も向上しています。
また、現在の天気について、ユーザー一人一人が報告できるシステムにより、より正確な天気の状態をさぐろうとしている企業もあります。
ネットサービス企業:自動翻訳などのクオリティ向上
「翻訳結果を、ユーザーがどのように修正したか」という履歴を収集し、翻訳結果を修正する方法です。ユーザーの対応を記録 → 結果を修正する、の繰り返しにより、自動翻訳サービスの精度を向上させたのです。
ビッグデータで、たくさんの便利を実現しよう
ここではビッグデータに関する技術が、みんなの生活をどのように豊かで便利にしているか?について解説しました。ビッグデータを生かしたサービスは普段、目に触れないところで動いているので「なんだか難しそう」と感じる人も多いでしょう。でも大丈夫。
最新の技術が、ものすごく大きなデータを扱うことを可能に
↓
大きなデータを分析し、世の中のすみずみが見えるように
↓
分析から、いままでなかった新しいサービスが生まれてくる!
この流れさえ理解できれば、ビッグデータの役割がなんとなく分かるはずです。
メリットとリスクが表裏一体のビッグデータ。バランスのよい関係を築き、暮らしを便利にしていきましょう。