リスキリングと労働移動の円滑化を一体的に進める観点から、「キャリア相談対応」、「リスキリング提供」、「転職支援」までを一体的に実施する体制を整備します。
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この記事では、経済産業省 経済産業政策局 産業人材課 課長補佐の細川茜氏に、事業立ち上げの背景やねらい、事業の概要などをお聞きしました。
リスキリングの必要性と事業のねらい
ーー「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」がスタートした背景や必要性について教えてください。この事業の大きなねらいは3つあります。1つ目は、人口減少への対応です。マクロ経済の観点で申しますと、持続的な経済成長のためには人口減少による労働供給の制約に対応すると同時に、労働生産性を高めることが重要です。日本では社内でのOJTが中心となっていますが、プラスアルファで個人がリスキリング講座を受けることで、労働生産性を高めるねらいがあります。
2つ目は、成長産業への労働移動です。DXやGXによって産業構造が変化するにつれて、労働者に求められるスキルも変わっていくはずです。労働者のスキルを企業のなかで育成することももちろん大切ですが、成長スピードを踏まえると、いかに専門性の高い人材を確保するかという質、そして人材の量の2点において、企業内の人材育成だけでは対応が間に合わないのではないかと考えています。中途採用に力を入れている企業も増えているなかで、外部からの人材採用をさらに促すという観点でもこの事業は重要です。
3つ目は、賃上げです。賃上げをしている企業が、高いスキルを持つ人材を引きつけ、その人材が企業の労働生産性を高めた結果、その企業がさらに賃上げすることにつながる。これを「構造的な賃上げ」と呼んでいるのですが、このサイクルを回すことが大切だと考えています。
ーー労働者の訓練支援については、厚生労働省でも取り組んでいる部分かと思います。今回、経済産業省がこの事業を立ち上げたのはなぜでしょうか?
たしかに、経済産業省では前例のない事業だと思います。本事業の特徴は、外部労働市場の発達を促したいというねらいで、転職を出口にしている点です。転職を出口として、キャリア相談やリスキリング、転職支援を一体的に支援するのです。
その方の学びたいことだけではなく、これまでのキャリアがどのようなもので、今後どのようなキャリアを歩みたいのか、どのような働き方をしたいのかという点をまずは棚卸ししてゴールを決める。そして適切なリスキリング講座を提案して受講頂き、最終的にリスキリング講座の受講結果を踏まえて転職支援をさせて頂く。このような形で、一人ひとりのニーズや環境に応じたキャリアアップのために、リスキリングだけではなくその前後のキャリア相談や転職支援含め一体的に支援をしていくことが事業のポイントになっています。
厚生労働省では労働者の環境整備や雇用の安定などを目的にさまざまな事業に取り組まれているかと認識しています。一方で経済産業省としては、リスキリングが労働移動やキャリアアップに直接繋がる機運を醸成していくため、今回の事業を立ち上げました。経済産業省ではほかにも、企業内での人材育成や、企業内の労働生産性向上を目指す政策にも取り組んでいます。さまざまな施策を組み合わせることで、人材がみんな生き生きと働けるようになってほしいと考えています。
ーー経済産業省としては、この事業にどのようなゴールを設けているのでしょうか。
この事業は、これまで民間ビジネスでは大きく取り組まれていない新しい領域の取組だと思っています。これまでの人材紹介サービスは優秀な人材を見つけて企業に紹介し紹介料を得るというビジネスでした。キャリア相談を丁寧にやってリスキリング講座を受講頂くというステップを踏むことはコストがかかる支援方法であり、事例としては多くありません。
この事業では多くの講座が用意されているので、多彩な分野でさまざまな方に利用していただきたいですね。「このようなリスキリングをすればこのような企業への転職に繋がる」という事例を作ることで、少しでもリスキリングが労働移動やキャリアアップに直接繋がる機運を醸成していければと思います。
事業者採択のポイントと事業の概要
ーー1次公募では51件の事業を採択されたとのことですが、講座やスクールの採択におけるポイントを教えてください。分野などは決められているのでしょうか。成長産業への労働移動がねらいの一つではありますが、成長産業だけに人が集まれば良いということでもありません。採択事業者のなかには、地方への転職を支援したり、スタートアップへの転職を支援したりといった、さまざまな分野のものがあります。
キャリアを選ぶのは個人であり、一人ひとりの環境や希望を踏まえたキャリア相談や転職を支援するための事業ですから、国が分野を制限するということはなく、「職業との関連が明確な学びであると見込まれること」という広い枠組みを設けています。
先ほどお話ししたように、キャリア相談からリスキリング、転職までを一体的に支援するという点が事業のポイントです。採択審査においても、「このような人を主なターゲットとし、このような転職先を目指すために、この講座をやります」というような一連のストーリーを詳しく書いていただき、それがいかに具体的かつ実現性があるかという点を、専門家を含めた第三者委員会で厳正に評価しています。
いかに質の高いサービスを提供する事業者を選ぶかという点は重視して議論をしています。分野の条件はありませんが、例えば「支援を受ける個人と会話形式でのキャリア相談は30分以上のものを必ず2回以上行うこと」、「講座の受講時間が15時間以上であること」などの形式要件も定めつつ、先ほどお話ししたストーリーの部分や工夫している点を聞くなど、とても時間をかけて審査しています。
ーー事業の予算・目標などの具体的な数字や適用条件を教えてください。
予算規模としては、令和4年度の補正予算で約750億円です。そのなかで事務局の経費として約30億円を見込んでいますので、残りの約720億円が事業者への補助金や個人の方の受講料負担軽減などに使われる費用になります。基金事業なので単年度で約750億円というわけではなく、補助事業の事業期間は令和8年3月31日までとなっています。
数値的な成果目標としては、令和6年度までに33万件のキャリア支援をすることと、令和7年度までに本事業を通じて転職された方のうち、1年後に賃金が上がった方の比率を50%とするという目標を掲げています。
また、今回の事業のルールとして、転職を出口としておりますので、在職者の方が対象になります。具体的には、企業と雇用契約を結んでいる正社員や契約社員、パート、アルバイト、派遣社員の方などが対象です。また、転職を目指していない方も対象になりませんので、ご注意ください。
リスキリングを考えている方へ
ーー最後に、リスキリングを通してスキルアップを考えている方へのメッセージをお願いします。この事業の主役は個人なので、一人ひとりの希望に沿った支援をさせていただきたいです。環境が変われば新しい気持ちになれますよね。そうやって楽しい人生を歩むためにこの事業を使っていただきたいです。
この事業のキャッチコピーは、「新しいスキルで、新しいチャンスを」です。新しい職場や環境に目を向けたい、スキルを身に付けてキャリアアップに挑戦したい、という方々に、本事業をぜひご活用いただきたいと考えています。ご関心を持たれた方は、事務局のホームページにサービスを提供する事業者のリストを掲載していますので、ぜひ各事業者にお問い合わせください。
>>コエテコ編集部追記
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