(取材)経済産業省 荒木 由布子氏|「すべての社会人にITパスポートを」。生成AIも取り入れた最新のIT国家試験でDX推進

すべての社会人にITパスポートを 経済産業省 荒木由布子氏
IT系試験の入門編にあたる国家試験として注目を集めている「ITパスポート試験」。現代社会に欠かせないITの基礎知識を身に付けようとする社会人や就活生に普及が進んでいます。

近年、変化の激しいIT分野において大きな話題となったのが「Chat GPT」などの生成AIの登場です。2023年8月には経済産業省が「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」を取りまとめ、ITパスポート試験のシラバスも生成AIに関する項目を追加したものに変更されました。

今回は、経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課(ITイノベーション課)係長 荒木 由布子氏に、ITパスポート試験のねらいや今回のシラバス改訂におけるポイントについてお聞きしました。

経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課(ITイノベーション課)係長 荒木 由布子氏

ITパスポート試験の概要と目的

ーーITパスポート試験が始まった経緯や現状について教えてください。

もともとは「初級システムアドミニストレータ試験(初級シスアド)」という試験があり、その出題内容の一部を受け継ぐ形で2009年にITパスポート試験が始まりました現代社会において備えるべきITの知識が身に付いていることを証明する試験で、受験対象はITを利活用するすべての社会人やこれから社会に出ていく学生たちです。

出題範囲は3つの分野で構成されています。1つ目は「ストラテジ系」。経営戦略やマーケティングといった、デジタルには直接関係のない経営全般の知識を問うものです。2つ目は「マネジメント系」で、アジャイルなどの開発手法や、プロジェクトマネジメント・サービスマネジメントに関する知識を問います。そして最後が「テクノロジ系」。これがデジタル技術の分野で、AIやビッグデータIoT、セキュリティなどに関する内容です。

幅広い分野の総合的知識を得る試験として、試験開始以来、社会人や学生などに広く受験していただいています。受験者数は毎年増加傾向にあり、現在(8月末時点)の累計合格者数は83万人にのぼります。

出題内容が陳腐化しないように都度見直していて、今年8月には生成AIに関する出題の追加を発表、来年の4月からは実際に関連する出題を開始する予定です。時代に即した「求められる試験」の制度であり続けたいですね。

ーーITパスポート試験を普及させる重要性や目的についてお聞かせください。

先ほどお話したように、もともとは「初級シスアド」という試験がもとになっているのですが、この試験は各部門における情報化を推進する方たちが対象となっていました。しかし、今や情報技術は私たちの社会の隅々まで浸透していて、これからのビジネスはデジタルなくして成立しません。そこで、職種や事務系・技術系、文系・理系を問わずにデジタルの基礎知識を身につけていただくために、ITパスポート試験を開始しました。

加えて、DXという観点でみると、日本はほかの先進国に比べて遅れている状況です。DXの推進には、専門人材の育成ももちろん大切ですが、デジタルを利用する側である人材のデジタルリテラシーを底上げすることも重要だと考えています。
 
 「パスポート」とは、日本から世界に出ていくため、羽ばたくための身分を証明するものですよね。ITパスポート試験は、IT化が進む現代社会で活躍するための必要な知識を持っていることを国が証明する試験という意味を込めて名付けました。

生成AIへの対応とシラバス改訂

ーー生成AIの登場について、経済産業省はどのような受け止めや対応をしましたか。

「Chat GPT」などの生成AIの登場には、かなりインパクトがありましたよね。すごいスピードで流れが盛り上がっていたので、経済産業省も2023年6月に「デジタル時代の人材政策に関する検討会」を設けて議論を始めました。生成AIを適切かつ積極的に扱う人材にどのようなスキルが求められるのか、という観点で集中的に話しあいましたね。そして検討会の設置から2か月で取りまとめて公表したものが、「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」です。

生成AIの技術はビジネスの機会創出や社会課題の解決に貢献できると注目や期待を集めていますが、日本での導入率はやはり世界の平均に対して進んでいません。このままだと日本企業は大きなビジネスチャンスを逃していくことになってしまいます。そこで、生成AIが盛り上がっている機運をうまく利用して日本のDXを進めていこうというねらいがありました。

ただ、やはり現状ではユースケースが少なく企業の利用イメージがわかなかったり、情報漏えいリスクや著作権問題といった懸念があったり、そもそも利用環境の整備に必要なデジタル人材がいなかったりという要因で、結果的に企業が社内で利用を認めていないという実態があるようです。

この遅れを取り戻し、生成AIが日本企業のDXを加速する契機となるには、ビジネスパーソンが生成AIをはじめとするデジタルリテラシーを身に付ける必要があります。加えて、生成AIなどの技術は進歩が速いので、変化を恐れず学び続ける「マインド・スタンス」も求められます。

ーーITパスポート試験のシラバス改訂について、概要を教えてください。


生成AIに関する議論を踏まえて、今回のシラバス改訂を実施することになりました。具体的には、3つの分野のうち「ストラテジ系」「テクノロジ系」における記載を拡充する形です。もともとあったAIに関する項目に生成AIの要素を盛り込んだり、これまではAIに関する記述がなかった知的財産権や情報倫理、サイバー攻撃などに関する部分を追加したりといった改訂がなされました。

ITパスポート試験の普及に向けて

ーーITパスポート試験のさらなる普及に向けて、メッセージをお願いします。

まずビジネスパーソンの方ですが、リスキリングの重要性は昨今さまざまな場面で耳にする状況だと思います。ITパスポート試験はほぼ毎日、好きな場所のテストセンターで受けられますし、社会人の合格率は50%以上と2人に1人以上は合格しています。実は意外とIT系の方よりも非IT系の方の合格率が高いので、文系でも気負わなくて大丈夫。しっかり勉強すれば合格する試験なので、デジタル分野の入門編ということで「ITパスポート試験」をぜひ受験いただきたいですね。

また、学生の方にとっては、ITに関する知識だけではなく、企業活動や経営戦略、マーケティング、財務・法務といった、IT社会の前提となる知識が幅広く学べます。受験者のなかで学生はまだ20%ほどなので、周りはあまり持っていないといえるのではないでしょうか。英検やTOEICのようにみんなが持っているようなものではないので、合格すればほかの学生から頭一つ飛びぬけた状態で社会に出ることができます。また、就活の際のエントリーシートでも資格に注目する企業が増えていると聞いていますし、自己PRにもきっと役立つので、ぜひ積極的に受験してほしいです。
 
 私たちは、「ITパスポート試験」をすべての社会人、これから社会人となる学生に受けてほしいという気概でやっています。ITの知識の必要性をもっと理解していただき、いずれは国語・英語と同じような扱いになるところまで目指していきたいです。


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