(取材)嶋津幸樹さん|英語教育エキスパートが教える、IELTSの本当の価値とは?

(取材)嶋津幸樹さん|英語教育エキスパートが教える、IELTSの本当の価値とは?
社会のデジタル化・グローバル化が進む昨今、英語力を身につけたいと感じている方も多いのではないでしょうか。多くの英語学習方法が巷にあふれる中で、「自分に合った学習方法を知りたい」「本当にこの学習方法は効果的なのか」と悩む方もいるでしょう。

今回お話を伺ったのは、世界で最もイノベーティブな教育を実践する英語教師に贈られるPearson ELT英語教育ティーチャーアワード2017を受し、日本全国の中高大学生に向けて講演やイングリッシュキャンプを実施している嶋津幸樹さん

英語教育エキスパートである嶋津さんに、おすすめの英語学習方法や世界標準で英語4技能をはかるテストとして知られているIELTSについてお話を伺いました。

2冊同時発売している嶋津さんの新著『改訂新装版 IELTSスピーキング完全対策』『改訂新装版 IELTSライティング完全対策』の魅力や活用方法についても記事内で紹介していきます。

「あなた日本語上手だね」が英語学習の究極段階

ー英語教育のエキスパートである嶋津さんが、日本の英語教育に感じる課題はありますか?

学校教育の制度的な問題もありますが、そもそもインプットの時間が足りていないことが挙げられます。週2〜3時間の授業でバイリンガルのような英語を身につけるのは困難と言えるでしょう。

私は何度か中国の学校を訪れていますが、とある上海の学校では、週13〜14時間程度の英語学習、それに加えて大量の宿題が出て、英語は大量にこなして当たり前のマインドセット。日本と比べてインプットの量が圧倒的に多いのです。

さらに言えば、英語教育にまつわる考え方自体も変えていかなくてならないと感じています。

今の日本の教育では、英語ができる子が優遇されたり、崇拝されてしまう現状があり、英語ができる「だけ」ですごいと言われます。でも、言葉が話せる「だけ」では何の能力も証明できません。ひとたび世界に踏み出せば、誰も褒めてくれないでしょう。

だからこそ、英語を学ぶ」感覚はいったん捨て、「英語ができることは、歯を磨くことと同じくらい当たり前」という感覚を、教える側も学ぶ側も持っている必要があるのです。

嶋津幸樹さん

ー英語が「できる」レベルでは、海外では評価されないのですね。

そうです。私の経験によると、英語には三段階のうまさがあると考えています。

まずは「あなた英語上手だね」と褒められるレベル。これが一段階目です。そこから、「もっとこう言ったほうが良いよ」とアドバイスをもらえたら二段階目になります。そして最終段階は「あなた日本語上手だね」と言われること。つまり、違和感なく英語で意思疎通できていて、母語が英語であると思われるレベルということです。

日本では、「褒められた」と思って一段階目で満足してしまう人が多いですが、「褒められる」のはまだ一段階目だと認識しないといけません。そういう謙虚なマインドでいれば、調子に乗らずに努力し続けられ、高いレベルに到達できるでしょう。

目指すべきは英語を使って議論できること

ー最終段階まで英語力を向上させるためには、どのような取り組みが必要だと考えていらっしゃいますか?

まずは前提として、英語を学ぶ」ことを目的にしてはいけません。大切なのは、英語を使って何を行うかです。わかりやすく言えば、「英語で議論できるようになること」が重要だと考えています。

英語に限らず、背景の異なる人と議論するのはとても難しいものです。とくに日本にいると、そうした人々と英語で議論する機会はほとんどありません。これはもう、苦労することは覚悟のうえで、当たって砕けるほかないですね。

私の場合は、海外に行ってはじめてその洗礼を受けました。英語の試験はすべてクリアし、自信を持って行ったのに、英語で議論するとなると、まったく太刀打ちできなかった。そうすると授業中の貢献度が低くなるので、良い成績も取れないんです。

この悔しい経験から私は、英語の語彙力や文法の正確さを鍛えるのはもちろん、「英語で何がしたいの?」という目的意識を早い段階から持つべきだと実感しました。

嶋津幸樹さん

ー議論ができるレベルの英語力を身につけるには、どうすればよいでしょうか?

議論のための土台を早く作ることが大事です。

議論するためには、リスニングと語彙力が重要です。特にリスニングは根本的なスキル。赤ちゃんが言語を覚えるときのように、言語習得では一番の基礎になる能力ですので、まずはリスニング力を鍛える必要があります。

ーリスニングはどのように学習するのがおすすめですか?

自分の好きなコンテンツを視聴することで、特定の分野に強くなることから始めると良いでしょう。たとえばバドミントンが好きなら、好きな選手のインタビューをたくさん見るとか。一つの分野に絞って、マニアックに極めるんです。

興味のない教材を必死に聴いても、結局のところ継続できず、英語力は伸びません。内容に関する背景知識もないので、「難しすぎる」と挫折してしまうリスクもあります。その点、好きなコンテンツであれば継続しやすいですし、背景知識が足場となってインプットもスムーズです。

ーでは、語彙力を鍛えるためにはどのような学習方法がおすすめでしょうか?

語彙力には爆発的なインプットが大事です。ところが日本で普通に暮らしている限り、インプットは圧倒的に少ない。それをカバーしようと思ったら、ちょうど受験勉強のように、単語帳を使って、単語テストをして……というペースではまったく間に合いません。

また、語彙には受動語彙(見てわかる、聴いてわかる語彙)発表語彙(話せる、書ける語彙)の2つがあります。ただ丸暗記するだけでは受動語彙にしかならず、発表語彙にはなりません。使える語彙力を身につけるためには、使うシチュエーションを考えながら語彙を覚えることが重要です。

語彙力を鍛えるための学習方法は山程ありますが、今回おすすめしたい勉強方法はリトリーバル プラクティス(Retrieval Practice)です。

この勉強方法は、単語を覚え終わったあとに本を閉じて、覚えた単語を思い出すことに時間をかけるものです。単語を覚えること(インプット)に注力するのではなく、思い出すこと(アウトプット)に時間をかけることで記憶の定着につながります。

議論するために必要なグローカル3技能

嶋津幸樹さん

ー異なる背景を持つ人と対等に議論するにあたり、英語力以外に身につけておきたい能力はありますか?

議論するうえでは、英語の4技能(リスニング・スピーキング・リーディング・ライティング)以外にも重要な要素があります。私はそれを以下の3つに分類し、「グローカル3技能」と呼んでいます。

  • 自分と向き合う力
  • 他者と向き合う力
  • 社会と向き合う力

冒頭でお話ししたとおり、英語ができる「だけ」の人は山ほどいます。だからこそ、質の高い議論をするためにはこの3技能が欠かせません。

ここからは、グローカル3技能について1つずつ紹介していきます。

グローカル3技能①自分と向き合う力

質の高い議論をするには、自分を客観視し、自己理解できていることが大切です。これをメタ認知と言います。

メタ認知ができていると、「私だからこそこういう意見を持てるんだ」「自分はこういう人間で、こういう気持ちなんだ」とスムーズに意見表明できます。

逆に言えば、自分のことを理解できていないと、「自分が」話す意味がなくなってしまいます。自分だからこそこういう意見を持っているんだと伝える意味でも、自己理解はとても重要です。

グローカル3技能②他者と向き合う力

他者と向き合う力とは、多様な背景を持つ他者とコミュニケーションを取り、議論・協働する力です。議論とはつまるところ相手とのinteraction(相互作用)なので、自分を理解して自分の意見を持っていることも大事ですが、相手のことを理解し受け入れる体制も大事です。

「自分と違う存在は排除する」という、ダイバーシティを受け入れない体制だと、どんなに英語ができていてもグローバルな社会では通用しないですね。

グローカル3技能③社会と向き合う力

社会と向き合う力とは、世界の教養・知識は、自分たちが持つ知識とずれていると認識したうえで、社会について知ることです。

日本人なら知っている常識でも、海外では誰も知らない習慣かもしれません。それを踏まえて、「この国の人と話す時には、こういうことを知っておかなきゃいけない」とか、「この人はこの宗教だから、この発言はタブー」などの知識を蓄えておくことが大切です。

ーどれも納得感のあるポイントです。ちなみに、英語学習は継続も大事だと思いますが、モチベーションを維持するポイントはありますか?

いま自分が過ごしている日常から、少しでも良いので一歩踏み出し、非日常の原体験をすることが大事だと考えています。たとえば、無料のプログラムでもよいので、自分だけマイノリティの環境に身を置くとか。そういう原体験をなるべく早い段階で定期的に体験することが大事です。そうしないと、日常の学習の意味が実感できないので、学ぶモチベーションが保ちづらくなります。

あとは、「超あこがれの人」を作るのもおすすめです。なぜなら、言語習得において効果的な内発的動機の一つが「こうなりたい」と思う気持ちだからです。

モデルにあこがれてダイエットを頑張るのと同じように、「この人みたいに英語がしゃべりたい」という人を起爆剤にして頑張れば、自然と学習も継続しやすくなります。

さらにいうと憧れの対象は、なるべく自分でも近づけそうな人がおすすめです。例えば、英語がすごく上手な大学の先輩とか、同じ県出身の人とか。あまりにもレベルが高すぎると憧れを通り越してしまうので、身近な人をお手本にするのが良いでしょう。

世界基準の英語テストIELTSの魅力

ー嶋津さんはIELTSに関する著書を多く出版されていると思いますが、IELTSとはどのような試験なのでしょうか?

IELTSは、世界の大学ランキングTOP100のうち95%の大学、10,000以上の機関が採用し、世界400万人が受けている国際的な認知度が高いテストです。IELTSはテストとしての信頼性が高く、獲得したスコアは就職や留学、移民などさまざまなシチュエーションで活用できます。

IELTSでは簡単な質問から哲学的な質問まで幅広く出題され、4技能が評価されます。

ライティングはマークシートではなく記述式なので、議論の展開を書くが求められますし、スピーキングは一対一の対面で行われます。まさに、議論する力が求められるテストと言えるでしょう

ーIELTSを勉強することによって、どのような効果が期待できますか?
嶋津幸樹さん

まず、身体測定をすればダイエットが成功するわけではないのと同じで、IELTSを勉強したから英語力が身につくという認識は間違いです。

対策をしてスコアを上げるのではなく、日々意味のある学びや議論を繰り返した上で自分の現在地を測定する意味で受験してもらいたいと思っています。そういう意味でも本質的な英語力が上がっているかどうか判断するテストとして、IELTSは本当に素晴らしい試験です。

私自身も、「最近英語がよく聞きとれるようになったな」と思って受けたら、IELTSリスニングで満点を獲得でき、大いにモチベーションが高まった経験がありますよ。

IELTSの対策はミニマムに!本質的な英語力があればスコアは上がる

ーIELTSの試験に向けて、重点的に学んだほうがいいポイントはありますか?

自分の意見を論理的に展開する練習をしたり、アカデミックライティング(学術的文章)の型を覚えたりすることが重要です。

グローカル3技能③「社会と向き合う力」に結びつくのですが、アカデミックライティングは、議論を運ぶために必要な世界標準の知識です。論理的な文章を書くためには、その常識を身に付けておかなくてはなりません。

これはスピーキングでもそうで、世界の常識を知らないと、つい不適切なことを言ってしまうんですよね。例えば日本人の英語学習者は自己紹介で「I’m shy」などと言ってしまう。でも、世界の人からすると「I’m shy」は、とても自己中心的で自分のことしか考えていない発言であり、「話しかけないでください」という意味に捉えられかねないのです。

カルチャースタンダードを全く理解せずに、英語なんて、通じれば良い」というスタンスで勉強していると、非常識なコミュニケーションをしてしまうリスクがあるのです。

ーそのような知識を身につけるためには、どんな参考書を選んだら良いでしょうか?

のちほどご紹介する私の著書も同様のコンセプトですが、参考書を選ぶ際にはIELTSの対策がミニマムにまとめられたものがおすすめです。

そもそもIELTSは、参考書を何周もして対策するテストではありません。なぜなら、IELTSは本質的な英語力があれば点が取れるテストだからです。議論して、意味のある学びを繰り返していれば点が上がるはずなんですよ。

過去問ばかりを解き、「これが出る・出ない」のレベルで対策をしていると、本質的な英語力が伸びません。そのような小手先の対策でスコアが上がったところで、実社会では通用しないでしょう。

ですから、IELTSの対策はミニマムに抑えつつ、英字新聞を読んで自分の意見を書いたり要約したり、周囲の人と議論したりするなど意味のある学びを繰り返すことが大切です。

そのうえで、実践に近い問題を解いて慣れておきたいという場合は、公式の問題集がおすすめです。ケンブリッジ大学出版のIELTS公式問題集は、本番に最も近い試験問題がまとめられたものです。過去問題ではありませんが、どれもIELTSに向けて準備された問題なわけで、問題形式を知るのにはピッタリですよ。

【IELTS公式問題集はこちら】
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IELTSの常識が学べる『改訂新装版 IELTSスピーキング完全対策』『改訂新装版 IELTSライティング完全対策』


ー最後に、嶋津さんの著書についてぜひ教えてください!

2月に同時発売した『改訂新装版 IELTSスピーキング完全対策』『改訂新装版 IELTSライティング完全対策』は、IELTSの常識を学べる2冊です。

日本人英語学習者が苦手とするスピーキングとライティングの二分野を、最低限のトピックでIELTSの型にしたがって学習できます。

英語で話そうとしたとき、自分の言いたいことがなかなか出てこないってときありますよね。この2冊では、「こういうときにはこう話そう」といった英語表現のコツや型がたくさん掲載されているので、真似をしながら英語力を高めていくことができます。

過去に出た問題をただ羅列しているのではなく、意見形成と議論のための内容にしているので、この本を使っていただければ意味のある学びができるのではないでしょうか。

対策本として使ってもらうというより、ここに書かれた議題やテーマを使って議論したり、自分の意見を表明する手助けとして使ってもらえると嬉しいです。

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ー最後に英語習得に向けて努力している読者にむけて、メッセージをいただけますか?

英語学習は世界で活躍するための入り口です。何度も言っているように、英語試験のスコアを取ることがゴールではありません

「英語ができる」レベルで満足せず、英語で何を為すのか?英語でどのような仲間と、どのような社会貢献をしたいのか?を考えなくてはならない。これは、世界に出れば出るほど感じることです。

IELTSで高いスコアを取ることや、誰かに褒められることも確かにモチベーションにはつながるでしょう。でも、できればそうした目先のことばかりに目を向けず、本質的な英語力を身につけたその先の姿を想像して、学習に取り組んでいきましょう

WRITERこの記事を書いた人

英語学習ガイド

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