グローバル教育とは?親としてできることはある?英語教育起業家・嶋津幸樹氏が語る
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今回お話を伺った方
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英語教育起業家 / IELTSエキスパート
嶋津幸樹氏1989年山梨県生まれ、上海在住。タクトピア株式会社所属(休職中)。ロンドン大学教育研究所応用言語学修士課程を修了。ケンブリッジ英語教授法資格CELTA取得。Pearson ELT英語教育ティーチャーアワード2017受賞、日本全国で30,000人以上の中高大学生を対象に講演や研修を実施。中高生向けオンライン英語学習プログラムのリンガハッカーズや英語コーチングのプログリットIELTSコースを監修。これまで複数大学で講師を務め、Cambridge University Press and Assessmentにてリサーチコーディネーターやマーケティング業務も担当。著書は15冊以上。『改訂新装版 IELTSスピーキング完全対策』『改訂新装版 IELTSライティング完全対策』『世界中で使える 超英会話コミュ力』など。英字新聞やIELTS公式ブログでの連載多数。
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その後、世界トップクラスの教育実績を誇る上海へ移住。現地上海の学校教育を研究したり、子育て世代向けのコミュニティの運営などを通して活動の幅を広げています。
2025年1月15(水)には、「グローバル教育セミナーin上海」も開催予定です。
大変有り難いことにSNSのお陰で上海に来てから多方面から繋がりが生まれ、『しまパパおうち英語倶楽部』を発足することになりました!現在は200名を超えたので紹介制となっていますが、まだまだメンバー募集中です!上海にはおうち英語を実践するママや元日本英語検定協会や元ベネッセなどの教育業界出身のママがたくさんいて、皆さんに協力頂き、知見と経験、ノウハウが蓄積させています。上海でも「おうち英語って何...
https://note.com/kokishimazu/n/n3882fedfdf0f >
今回は嶋津さんに、これまで歩んできた道のりや上海の教育事情、そして未来への展望について詳しくお話を伺いました。

IELTS対策はミニマムに?スコアを上げるだけでなく、将来にも活きる本質的な英語力の身につけ方を、英語教育の専門家・嶋津幸樹さんに徹底解説していただきました。
2025/04/24
世界トップクラスの上海の英語教育を学びたい
ー嶋津さんは現在、上海に移住されていますね。その理由を教えてください。私は日本全国の学校を巡り、これまで15年以上にわたり英語教育に携わってきました。その原点には、山梨という田舎で生まれ育ち、オックスフォード大学という世界に触れたことで痛感した「英語教育の格差」を埋めたいという想いがあります。目指したのは、「地方の中学・高校生が世界に羽ばたけるようサポートすること」。
しかし現実には、地方でその想いを伝えるのは難しい場面も多く、結果として情報感度の高い保護者の子どもたち、大都市の子どもたち、そして都内の名門校での講演や研修が主な活動となっていました。
それでもなお15年以上走り続けてきたことで、「やり切った」という達成感は生まれています。また、同時期に子どもの誕生や妻の上海への駐在が決まるなど、家族の大きな転機が重なりました。これは新たな環境で自分自身が学び直すチャンスだと捉え、「最先端の地で英語教育を深く学び、それを日本に持ち帰りたい」と考えたことが、全ての仕事を辞めて、上海移住を決断した理由です。

日本全国の学校での講演活動
ー上海はどのような点において「最先端の地」なのでしょうか?
上海は過去に世界教育ランキングで1位* となった実績があり、教育の分野で世界的に高い評価を受けている都市です。英語教育業界でも、上海はIELTSが世界で最も盛り上がっている都市であると話題になっています。これは国の政策だけでなく、家庭レベルでも英語教育の重要性が広く浸透していることの現れでしょう。

2010年当時の上海の小学校
ー日本では、英語教育を習い事や教材に任せる家庭が多い印象がありますが、上海の状況はいかがでしょうか?
上海の保護者たちは、自身が英語を話せることに加え、外注への依存度が低く、家庭での英語学習が非常に活発です。教育熱心な家庭が多く、保護者自身が本気で子どもの習い事に取り組んでいる姿勢が特徴的です。夕方になると習い事の送り迎えをする父親やカフェやレストランでつきっきりで宿題に付き合う母親の姿をよく目にします。
とくに2008年、上海が国際学習到達度調査(PISA)の全科目で1位を獲得したことは象徴的な出来事でした。当時の調査対象だった子どもたちは今、親世代となり、自分たちが築き上げた教育水準をさらに高めようと情熱を注いでいます。子どもの食事や家庭における家事や洗濯などは全て祖父母に任せ、高い能力を持つ保護者たちが直接、子どもの学びを支えていることで、上海の子どもたちは学校だけでなく家庭内でも質の高い教育環境を享受しています。
ー上海は学習環境の質が非常に高いんですね。
その通りです。上海では小学校1年生から英語が必須科目となっており、学校教育の質も非常に高いです。2010年頃から上海の学校を何度も視察してきましたが、当時から小学校1年生でオックスフォード大学出版の教科書を使用し、高度な英語でのやり取りを展開していました。また、英語教師の多くが国際資格保持者や大学院修了者である点も際立っています。
さらに、最近では上海の小学校で、英語で社会課題を解決する「課題解決型学習」が盛んで、英語教育の枠組みを超えた学びが主流になってきています。受験のための英語教育だけでなく、先を見据えた未来の先進的な教育を実践しています。このような教育スタイルの違いが、両国の学習環境の大きな差を生んでいると感じます。
上海にあるインターナショナルスクール
ー上海では小学校1年生から実践的な英語教育が行われているとのことですが、早期英語教育にはどのようなメリット・デメリットがあるのか教えていただけますか?
そもそも上海では「英語を早期に学ぶべきか」という議論自体が存在しません。英語は当たり前に必須とされており、その上で「次にフランス語やスペイン語をいつから学ぶか」という議論が主流です。英語教育は、学習者が早い段階で国際社会に通用する力を身につけるための土台であり、英語はグローバル社会で勝つための最低条件と考えられています。
一方、日本では「英語をいつ始めるべきか」「英語を学ぶべきかどうか」と迷う場面がいまだに多いのが現状です。
これは、日本語だけで生活や学問が完結するという、非常に稀有な環境が背景にあります。博士課程まで母国語で修了できる国は世界的にも珍しく、実際は英語が話せなくても困ることも少なく、日本の独自の発展を象徴する素晴らしい一面でもあります。
しかし、その結果として「英語を学ぶ必要性がどの程度あるのか」という迷いや選択肢が生まれ、英語教育に対する意識や取り組みのスタートが遅れるケースも少なくありません。この必要性や切迫感の差が、国際社会における言語習得の位置づけに大きな差を生んでいるのではないかと感じます。

高校生・大学生・社会人が共に学ぶ大学講座
子どもに最適な学びを提供するためには「保護者の学び」が重要
ー自宅での英語学習、いわゆる「おうち英語」に興味を持ったきっかけを教えていただけますか?子どもが生まれたのを機に、「おうち英語」に関する教材や学習法を調べ始め、それを広める活動に取り組むようになりました。大きな転機となったのは、子どもが生後半年の頃、妻が購入した英語教材との出会いです。そこでのマーケティング戦略に驚愕しました。
これまで私は中学生や高校生、大学生向けに英語教育の授業や研修を行ってきましたが、幼児・小学生向けの英語教材やサービスでは、全く別のアプローチが必要だと気づきました。さまざまな教材やサービスを分析する中で、幼児英語教育の奥深さや可能性に惹かれるようになったのです。
ー幼児・小学生向けの教材と中学生以上向けの教材では、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
中学生以上の教材は、受験を見据えた「成績向上」、つまり「数字」を重視します。そのため、論理的かつ実践的な内容が求められ、教育の本質に直結したアプローチが必要です。一方、幼児・小学生向けの教材は、必ずしも成績の即効性が求められません。そのため、保護者が雰囲気や口コミを基準に選ぶことも多いです。
ただし、この領域には悪質な教材も存在します。特に幼児向けの教材やサービスは、保護者の焦りを煽るようなものもあり、慎重な判断が必要です。契約前には冷静に検討することを強くお勧めします。
私が感じる課題は、マーケティングそのものを鵜呑みにしてしまう保護者、教材やサービスを批判的に評価せずに選んでしまう保護者が少なくない点です。保護者自身が子どもの学びや教育について深く考え、深く学び、主体的に向き合うことの重要性を、メディアや講演を通じて発信するようにしています。
いくら子どもが一生懸命英語を学んでも、保護者が英語教育や子どもの学びに無関心だと、期待する成果は得られにくいでしょう。子どもに英語教育での成果を期待するのであれば、保護者も「見抜く力」を鍛え、教育の選択肢に対して主体的に向き合う必要があります。10年以上から保護者向け授業体験を実施して、保護者に学び続けてもらう環境を作り続けています。

保護者向け授業体験会
ー英語教育で成果を出すには、子どもだけでなく保護者も学ぶ必要があるとのことですが、具体的に保護者は何を学べば良いのでしょうか?
具体的に「これを学ぶべき」という決まったものはありませんし、保護者自身が英語を話せるかどうかも重要ではありません。大切なのは、常に新しい情報を取り入れ、自分の価値観をアップデートし続けることです。
たとえば、自分の学生時代に効果的だったと思われる勉強方法が、現代では通用しない場合も多々ありますよね。子どもの学びにおいて、保護者が過去の成功体験や固定観念を押し付けることは、むしろ成長の妨げになりかねません。そのため、子どもの様子を丁寧に観察し、柔軟に対応する姿勢が必要です。
また、保護者が学習環境を整えすぎるのも問題です。子どもに最適な英語教育を提供したいのであれば、「自分で考え、学ぶ力」を育む環境を整えることが重要です。そのためには、どのような環境が子どもにとって適切かを、保護者自身が学び、試行錯誤を続けることが求められます。
「子どもの勉強だから保護者には関係ない」と考える方もいるかもしれませんが、実際には保護者の学びが子どもの選択肢を大きく広げます。保護者が学び続ける姿勢を示すこと自体が、子どもにとって最大のサポートになります。学び続ける保護者の姿勢は、子どもの学ぶ意欲を刺激し、英語教育の成果を引き出す原動力となるでしょう。
保護者向け・先生向けにグローバルな教育情報を展開予定
ー今後はどのようなサービスを展開していくご予定ですか?現在、上海にいながらも「日本にどのような価値を届けられるか」を常に意識しています。今後は特に、幼少期の子どもを持つ保護者を対象にした「保護者向け」のサービスを展開していきたいと考えています。
「幼少期の教育は費用対効果が高い」というデータが示す通り、幼少期は子どもの言語能力を伸ばすための非常に重要な時期です。私自身も子育てを通じてその実感を得ています。そのため、現在は「幼少期にどのような環境を整えるべきか」をテーマに、確かなデータに基づいた情報を保護者に提供できるよう準備を進めています。
最近は「家庭内ではどのような声がけをすべきなのか」、「家族が最も時間を多く過ごすリビングではどのような本をどのように配置すると子どもの学習効果に繋がるのか」といった論文を読んで日々研究を重ねています。

上海にあるバイリンガル幼稚園
ー上海ではどのような活動をされていますか?
現在、「しまパパおうち英語倶楽部」というコミュニティを元々教育業界にいた駐在ママ達と運営しています。このコミュニティには、上海に駐在している約300人の日本人が参加しており、ランチ会や情報交換会などを定期的に開催しています。このような社会貢献度の高い活動を通じて、教育をテーマにしたソーシャルインパクトを起こすことを目指しています。
さらに、まだ詳細を大々的に公表していませんが、2025年1月から新たなプロジェクトを発足する予定です。このプロジェクトは学校の先生向けのもので、先生たちが学び続けられる環境を継続的に提供することを目的としています。上海の教育現場で活躍する先生方から知見を得て、世界の教育の現場で働く方々が自身のスキルや知識をアップデートし続けるための仕組みを作ることで、教育全体の質の向上に貢献していきたいと考えています。
ー具体的にどのようなプロジェクトを展開するご予定ですか?
上海に移住する直前は学校の先生向けの教員研修でたくさんの若手の先生方に接する機会がありました。そこで課題に感じたのは、メディアに取り上げるべき素晴らしい実践をする先生方が世の中に認知されずに、学校の中のあらゆる制限や障壁により活躍の場を奪われているということです。
まず、オンラインで最先端の教育現場の情報を共有するコミュニティを立ち上げ、ロールモデルとなる先生方をどんどん輩出していきます。その後は、ロールモデルとなる先生方の発信を映像化し、オンライン上で誰もがアクセスできるプラットフォームを構築します。この取り組みにより、優れた教育実践を可視化し、他の先生方が学び続けられる仕組みを作っていくことを目指しています。日本や上海だけでなく、教育に関わる全ての人が学び合い刺激し合えるコミュニティが必要だと感じています。

立命館アジア太平洋大学にて教員研修
さらに、英語教育やグローバル教育に関心を持つ保護者や先生方を対象に、「グローバル教育セミナーin上海」を2025年1月15日(水)に開催する予定です。このセミナーでは、最新の教育動向や実践例を共有し、参加者が即座に活用できる具体的な知識やスキルを提供します。
これらの活動を通じて、教育関係者や保護者が学び合い、つながり合う場を作り、有益な情報を発信・共有し続けることで、教育の質向上に貢献していきたいと考えています。
グローバル教育セミナーin上海|参加無料!最先端のグローバル教育事情を徹底解説
ー「グローバル教育セミナー」について、詳細を教えてください。
今回のセミナーでは、最先端のグローバル教育に関する情報から「おうち英語」の具体的な実践方法まで、通常であれば有料級の内容を無料で徹底解説する予定です。このセミナーは録画禁止で、現地に足を運んでいただいた方にのみ、包み隠さずさまざまな内容を共有します。

とはいえ、私が最もお伝えしたいのは、「自分で選択し、自分で決める」ことの重要性です。セミナーを通じて多くの選択肢を知っていただきたいという思いから情報を提供しますが、特定の方向に導こうという意図は一切ありません。
社会がますます複雑化していく中で、保護者が正しい判断力を持たなければ、情報に流されてしまいます。「子どもの選択肢を広げるためには、保護者も学び続ける必要があります」と繰り返しお伝えしているのはそのためです。最終的に必要かどうかを判断するのは保護者である皆さん自身。皆さんが「自分で考え、自分で選ぶ」ためのヒントを得られる場にしたいと考えています。
セミナーでは、子どもの未来を考える上での判断基準を作るためのさまざまな情報をお話しする予定です。ぜひご参加いただき、保護者としてどのような選択をしていくべきかを考える機会にしていただければと思います。
これからは親子共に多様性の中で生きていける準備を
ーこれからの時代において、保護者としてどのような意識や行動が求められるのでしょうか?これからの世界は、過去の成功体験が全く通用しない未知の領域に突入していきます。もし子どもにより良い学習環境を提供したいと考えるのであれば、保護者自身が学生時代に得た古い知識や価値観に頼るのではなく、常に学び続ける姿勢を持つべきだと考えます。
日本は、美しい言語文化と恵まれた環境を持つ国ですが、それだけにとどまらず、世界へ目を向ける視点がこれからは重要になります。英語をはじめとした外国語を通じて、広い視野で物事を見渡し、多様性の中で議論できる力を子どもに持たせることが大切です。
また、子どものことを最も理解しているのは、他でもない保護者自身です。だからこそ、自分の成功体験や考え方を押し付けるのではなく、子どもの適性や興味を見極め、それに合った選択肢を提供することが重要です。特に、「子どもが30歳になったときの幸福度」を念頭に置き、今できる最善の行動を考えていただきたいと思います。
私自身、この3年間、子どもの成長を間近で見守りながら英語教育に向き合ってきました。その経験を通じて、保護者の気持ちや葛藤を深く理解する一方で、英語教育の最適解も見つけることができたと感じています。これからも、「子どもにより良い英語教育を提供したい」と考える保護者に向けて、実践的で有益な情報を発信し、支援していきます。
WRITERこの記事を書いた人
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