SES・受託・自社開発、すべて経験したからこそ見えたキャリアの可能性
私はこれまで10年以上のエンジニア人生で、この3種類の働き方をすべて経験してきました。その経験を通して、エンジニアとしての成長やキャリアの選択肢について、多くの学びを得ることができたと感じています。
そこで今回は、私が経験したSES、受託、自社開発それぞれの仕事内容や働き方を振り返りながら、それらがキャリアにどのような影響を与えたのかを考察していきます。これからエンジニアとしての道を選ぼうとしている方、あるいはキャリアに悩んでいる方の参考になれば幸いです。
SES・受託・自社開発、それぞれの働き方の特徴
エンジニアとして働くうえで、SES、受託、自社開発はそれぞれ異なる特徴を持っています。どんな違いがあるのか、簡単にご紹介しましょう。SES(システムエンジニアリングサービス)は、エンジニアがクライアント先に常駐して業務を行う働き方です。
現場によって仕事内容や使う技術が異なるため、多様な経験を積むことができます。一方で、クライアント先での作業が中心となるため、同じ会社のメンバーと関わる機会が少なく、孤独感を覚えることもあるかもしれません。受託開発は、クライアントからプロジェクトを受注し、自社内で開発を進める働き方です。納期や予算に縛られるため、チーム全体で効率的にプロジェクトを完了させる必要があり、スケジュール管理が厳しく求められます。
納期が厳しいプロジェクトだと、チーム全体で効率的に作業を進めるプレッシャーがあり、時にはストレスを感じることもあります。
自社開発は、自社の製品やサービスを作り上げていく働き方です。プロジェクトは短期的な納期に追われるのではなく、長期的に改善・成長させていくことが多く、継続的な学びや技術向上が求められます。
自社開発は、開発対象が「社員のみが利用するもの」なのか、あるいは「一般の個人や法人ユーザーが利用するもの」なのかによって、スケジュールの管理や業務の忙しさが大きく変わる点に注意が必要です。社内向けのシステムであれば比較的柔軟に進められることが多い一方、外部向けのサービスは競争や市場ニーズを意識したスピード感が求められます。
私がエンジニアとして経験した現場と仕事内容
エンジニアとして10年以上のキャリアを歩む中で、私はこれまでにSES、受託、自社開発という3つの異なる働き方を経験してきました。それぞれの現場での仕事内容や環境は大きく異なり、苦労も学びもたくさんあったと感じています。ここでは、私が経験してきたいくつかの現場と仕事内容から、リアルなエンジニアの現場の様子をご紹介しましょう。
メーカーのメール配信システム(SES)
私のエンジニア人生のスタートは、メーカーの現場にSESとして常駐した経験でした。社内研修で学んだばかりのJavaを使い、メール配信システムの開発に携わっていました。初めての現場で右も左も分からず、知らないことだらけの日々。先輩と二人だけの少人数の環境だったため、相談相手も少なく、正直なところ寂しさを感じることもありました。また、現場が田舎にあったため、駅までの帰り道が暗く、ちょっとした恐怖を感じながら通勤していたのも思い出深いです。
この現場の経験として、忘れられない出来事があります。テストのつもりでプログラムを起動したところ、誤って本番環境で実行してしまい、クライアントから厳重注意を受けたのです。エンジニア人生初の「やらかし」には相当落ち込みましたが、幸運にも(?)その際に大きなバグが発覚し、結果的には大きな問題にはならずに済みました。
この経験を通じて、テスト環境と本番環境を慎重に、それはもう慎重に、穴が空くほどにしっかり確認することの重要性を学びました。
メーカーの在庫管理システム(SES)
2年目にして任されたのは、メーカーの在庫管理システム(C#)の開発でした。SI企業(企業向けのシステム開発を請け負う企業)の担当者の指揮のもと、中国の会社が開発したシステムを引き継ぎ、継続開発するというものです。私は当時神戸に住んでおり、クライアントの現場は都内。さすがに常駐するわけにもいかないので、自社内でメールと電話を使ってやりとりをしながら作業を進めました。今思えば、SESというより受託開発のような感じでしたね。なんで受注したんだ…。
当時の社外とのやり取りは、メールか電話が主流でした。自社内メンバーとのやりとりにはチャットも使っていましたが、その際は「MSNメッセンジャー」や「IP Messenger」というソフトを使用していました。
過酷な労働環境のなかストレスは日に日にひどくなり、耳鳴りが止まなくなったため、「このままではヤバい」とプロジェクトをリタイア。あのときは本当に悔しかったです。
後日談ですが、私の仕事を引き継いでくれた主任さんから、「あの仕事はしんどすぎる。今までよく頑張ってやってたね」というお声がけをいただきました。
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フレームワークを用いた業務システムなど(SES)
大手情報システム会社にSESとして常駐し、Javaフレームワークを用いた業務システムの開発に携わりました。社内では複数のプロジェクトが並行して進んでおり、同じ会社からの常駐メンバーも多く、にぎやかで活気のある現場でした。SES向けの専用区画が設けられており、他社のエンジニアとも自然に交流できたため、楽しくも貴重な経験が出来た現場だったと感じています。関連記事:Javaが学べるプログラミングスクールランキング
基本的な業務の流れとしては、リーダーから画面や機能ごとの仕様書が渡され、それに基づいてコーディングとテストを行うというものです。ほとんどの機能には帳票出力が含まれており、処理部分の実装に加えて、帳票が正しく出力されるか、レイアウトが崩れていないかを実際に印刷して確認する必要がありました。この印刷確認が想像以上に手間がかかり、思い通りに出力されずイライラすることも多かったです。
仕事自体はとても楽しかったのですが、残業の多さは正直つらかったですね。ひとつのプロジェクトが終わると次のプロジェクトへと移る流れのなかで、炎上案件に投入されることも少なくありませんでした。終電帰りは当たり前で、夜22時に退社できると「今日は早い!」「今から飲みに行く!?」と盛り上がったのも、今となっては懐かしい思い出です。
そんな環境ではありましたが、仲間との一体感は強く、忙しさのなかにも充実感がありました。また、この時期を乗り越えたことで得た経験やスキルは、私がエンジニアとして働くうえでの自信につながったと感じています。
PHPを使ったオリジナルCMS開発(受託)
SESから受託開発に移りたいと上司に相談したところ、「PHPの仕事ならある」と勧められ、初めてPHPを使った案件に携わることになりました。案件は、メディア企業のWebサイト用CMS(コンテンツマネジメントシステム)の開発で、仕様決めからコーディング、テストまで一貫して担当しました。初めてのPHPには不安もありましたが、Javaと構文が似ていたため、スムーズに習得できました。また、JavaScriptもほとんど扱ったことがなかったので、同時に勉強しました。当時、登場したばかりのAjax(※)を試して、Web画面が動的に動く様子に「すげー!」と感動したのを覚えています。
3人の小さなチームで進めたプロジェクトで、納期は比較的タイトでしたが、マネージャーが柔軟に調整してくれたおかげで、大きな負担なく進められました。先輩から「受託は忙しい」と聞いていましたが、想像していたよりも無理のない働き方ができたのはありがたかったです。
この案件ではWebデザイン会社と協力しながら進めたため、私にとって初めてWebデザイナーという職業の人たちと関わる機会にもなりました。初対面のとき、彼らの名刺のデザインがとてもオシャレだったのを見て驚いたのを今でも覚えています。デザイン会社とのやり取り、クライアントとの打ち合わせ、仕様決め、納品の流れなど、実務を通じて多くの経験を積むことができました。
納品後、エンドユーザーの声を直接聞くことができたのも初めての経験でした。それまで携わっていた現場では、ユーザーの感想や意見を聞く機会は一切ありませんでしたが、初めて実際のユーザーから「ありがとう」と感謝の言葉をもらえたのは本当に嬉しかったです。ユーザーからの反応が、私のエンジニアとしてのモチベーションにつながるんだということに気づきました。
PHPを使ったデータ分析システムの開発(自社開発)
現在、私は自社向けのデータ分析システムの開発に携わっています。主な業務は、PHPとJavaScriptを使った既存システムの改修や機能追加。システムの利用者は社内のメンバーのみのため、納期に追われることなく、柔軟にスケジュールを調整しながら働ける環境です。入社当初、このシステムには仕様書が一切なく、バグだらけで正常に動作する画面も少ししかありませんでした。どこから手をつければよいのか分からず、頭を抱えたのを今でも覚えています。さらに、出産・育児のブランクを経て11年ぶりにPHPを扱う私にとって、この混沌とした状況を整理するのは容易ではありませんでした。
それでも少しずつ仕様を整理し、機能図やER図をドキュメントとしてまとめ、バグ管理表を作成しながら、できる範囲で修正を進めました。また、社員が1日数十回も手動で行っていたデータアップロードを自動化。この改善には社員の皆さんから大いに感謝され、大きな達成感を得ました。
今ではチームメンバーも4人に増え、システムの安定性も向上しました。「あのときの頑張りがあったからこそ、今の環境がある」と、自分でも誇りに思っています。
SESがキャリアにもたらすこと
SESの現場経験は、私のエンジニアとしての基礎を築くために欠かせないステップでした。JavaやC#といったプログラミング言語を実践的に習得できただけでなく、課題を乗り越える中で実務感覚やプロジェクト進行のノウハウを身につけられたのは、SESの経験があってこそです。また、多様な現場で異なるシステムに携わったことで、柔軟な対応力や課題解決力も磨くことができました。
もちろん、孤独感を感じる場面や過酷な労働環境もありましたが、それを乗り越えた経験は自信となり、エンジニアとしての成長に大きく寄与したと感じています。
このように、SESの働き方は、幅広い技術や現場適応力を学ぶ機会に恵まれます。プログラミング言語を習得したばかりの人や、実務経験が少ない人にとっては、SESの経験が将来のキャリアの土台となることでしょう。
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受託開発がキャリアにもたらすこと
受託開発の経験は、私のエンジニアとしての視野を広げ、責任感を育んでくれました。クライアントとのやりとりや仕様決定など、プロジェクト全体を一貫して担えたことで、技術だけでなく、コミュニケーション能力や調整力も磨かれました。また、クライアントの要望に応じた柔軟な対応が求められる環境で、多角的な視点を持てたのも大きかったです。
タイトな納期やスケジュール調整の難しさに負担を感じることもありましたが、さまざまな経験を乗り越えたことで、キャリアにおける忍耐力やタフさを培うことができたと感じています。
このように受託開発の現場は、技術力を深めるだけでなく、エンジニアとしての総合力を高める場として非常に有意義です。クライアントとの連携を学びたい人や、プロジェクト全体に関わりたい人には、特におすすめの働き方といえるでしょう。
関連記事:未経験からSIerになれる?向いている人やSESとどっちがいいのか解説
自社開発がキャリアにもたらすこと
自社開発の経験は、私のエンジニアとしての働き方を大きく変えると同時に、やりがいや満足感をより深く感じるきっかけとなりました。自社製品の開発に携わることで、プロジェクトに長期的な視点で取り組めるだけでなく、納期に追われることなくじっくりと品質を追求できるようになりました。また、システムの利用者が同じ会社の社員であるため、直接感謝の声を聞けることが大きなやりがいにつながっています。
一方で自社開発は、限られた技術スタックの中で開発を進めることが多く、新しい技術に触れる機会が少なくなりがちなのは課題です。しかし、それでもプロダクトに深く関わることで得られる達成感や、働きやすい環境のメリットの方が大きいと感じています。
自社開発は、プロダクトに深く関わりながら、働きやすさとやりがいを両立できる働き方です。長期的にキャリアを築きたい人や、自分の手がけたシステムで直接ユーザーに貢献したい人にとって、魅力的な選択肢となるでしょう。
SES、受託開発、自社開発それぞれがエンジニアとしての成長につながる!
SES、受託開発、自社開発――これまでのキャリアで経験した女性エンジニアとしてのそれぞれの働き方は、私にとって欠かせない財産です。どの環境でも新しいスキルや視点を得ることができ、その積み重ねが今の自分を支えています。「どの働き方が一番良いのか」「どれが悪いのか」といった考えは、必ずしも当てはまりません。どんな選択であっても、経験を通じて自分の強みや適性を見つけることができます。大切なのは、環境に応じて何を学び、それをどう活かしていくかを意識することです。
この記事を通じて、自分のキャリアに迷いながらも前に進む方々に、「どの経験も無駄にならない」ということを伝えたいです。それぞれの経験が、あなたのエンジニアとしての成長を促し、キャリアを豊かにしてくれます。自分の働き方を見つめ直し、そこで得られた経験を大切に活かしていきましょう。
この記事では、おすすめのプログラミングスクールと、オンラインプログラミングスクールおすすめや選ぶときのおすすめポイントをわかりやすく比較します。ITスクールやエンジニアスクール、プログラミング講座とも呼ばれていて、IT業界への転職や副業、フリーランスを目指す方におすすめです。
2025/03/11 10:50
WRITERこの記事を書いた人
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新人エンジニアの多くはSESからキャリアをスタートします。私の新卒時代も、同期全員がSESの現場に配属されていました。