ガイドラインは学校現場を対象としていますが、保護者であるわたし達「親」にとっても有益な情報が多く載っています。「生成AIとかチャットGPTとかよくわからない~」というママ・パパたち、一緒に見ていきましょう!
チャットGPT・生成AIとは?何ができる?
生成AI(または生成系AI)とは、「Generative AI:ジェネレーティブAI」とも呼ばれ、さまざまなコンテンツを生成できるAIのことです。従来のAIが決められた行為の自動化が目的であるのに対し、生成AIはデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテツを生成することを目的としています。「新しいコンテンツ」とは、たとえば文章もそうですし、イラストや音楽、動画なども含まれます。生成AIは、プロンプトと呼ばれる「指示・質問」に対して、蓄積された過去データから学習・分析をし、最適な回答をするだけでなく、新たに創造した制作物を提示します。
出典:用語解説/野村総合研究所
OpneAI社のChatGPTは、生成AIの代表的なものです。
他にもさまざまなアプリが出ていますが、この記事では「チャットGPT」と呼んで、解説していきますね。
急速に拡大するチャットGPTと教育現場の対応
本ガイドラインは、(中略)主として対話型の文章生成AIについて、学校関係者が現時点で生成AIの活用の適否を判断する際の参考資料として、(中略)暫定的に取りまとめるものである(一律に禁止や義務づけを行う性質のものではない)2023年7月4日に文部科学省から「生成AI(チャットGPTなど)の利用に関するガイドライン」が通知されました。ガイドラインは暫定的なもので、状況に応じて「機動的に(素早く対応)」改訂を行うとしています。
出典:「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」の 作成について(通知)/文部科学省 初等中等教育局
このガイドラインは生成AI(チャットGPT)を教育現場で使用するにあたって注意すべき点などを盛り込んだ小中高生向けの「おおまかな指導方針」です。
2023年5月の中教審(中央教育審議会)の議論開始から、わずか2ヶ月あまりでガイドラインは作成されました。いかにチャットGPTが子どもたちに認知され、急速に拡大しているかが伺えます。
どのような「ガイドライン」が出たかを詳しく解説する前に、いったいどれくらいの子どもたちが生成AI(チャットGPT)を知っているのか、使ったことがあるのかを見てみましょう。
チャットGPTで読書感想文を書く小学生!?
このグラフを見ると、10代男性におけるチャットGPTの認知率は90%を超えています。10代は15歳からとしているので、高校生から大学生とみなすと、実に90%もの10代男性はチャットGPTを知っており、5人にひとりは使用したことがあると言えます。
筆者の息子のひとりは高校生ですが、聞いてみるとこんな答えが返ってきました。「息子もアプリはダウンロードしてた!でも使ったことはないって言ってるけど」に続いて、「ダウンロードしてたら一度は使ってるはずだよね~、別に悪いことではないから隠さないでいいのに、使ったことないって言い張るのよ」と苦笑いまじりで話してくれました。
高校生のみのデータは見つかりませんでしたが、個人的には「けっこうな数の高校生がチャットGPTを遊び半分でも使ったことがあったり、誰かが使っていたりするのを見たことがある」印象をもっています。
チャットGPTの月間利用者数が1億人に達するまでの期間に関する調査を見ると、人気のTikTokさえ9ヶ月にかかっているのに、チャットGPTはわずか2ヶ月です。
急速な拡大の中でも、利用率が高いのは大学生です。
レポートや論文を書くことが多い学生・教職員にあっという間に広がり、高校生の多くがチャットGPTを遊び半分には使ったことある状況になりつつあります。
チャットGPTは、ものすごい早さで広まっているところから、そのうちに中学生や小学生でも使ったことがある子が増えてくるかもしれません。宿題に便利という考え方は、たとえば「読書感想文」などでチャットGPTを利用しようと思いつく小学生がいても、もはや不思議ではありません。
ベネッセから子ども向け生成AIも登場
ベネッセから「自由研究おたすけAI」が発表されましたね。これも生成AIだけど自由研究に特化していて、読書感想文を書いてくれるとか、答えをまるっと教えてくれるわけではないそう。
キャラクターとやり取りをしながら、テーマ探しや検索の方法をサポートしてくれるみたい。
子供向け生成AIの登場によって、さらに小学生の間でチャットGPTなどの認知度もアップしそうですね。
初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインとは?
そんな状況の中で、文部科学省から生成AI利用に関するガイドラインの通知が行われました。ガイドラインは学校現場を対象としています。
生成AI(チャットGPT)に関して次のような指導を行う必要がある
- 生成AIの性質やメリット・デメリット、情報の真偽を確かめるような使い方の指導
- 個人情報やプライバシーに関する情報、機密情報を入力しないようにすること
- 生成AIに全てを委ねるのではなく最後は自己の判断や考えが必要であること
- AIによる生成物を自己の成果物として応募・提出することは不適切又は不正な行為であること
- 保護者に対しても、生成AIの不適切な使用が行われないよう、周知・理解してもらうこと
位置づけ | 教育現場では限定的な利用から始めることが適切 |
適切な使い方の例 (授業や生徒の使用) |
英会話の相手 議論を深める目的での活用 発展的学習として高度なプログラミングを行う |
不適切な使い方の例 (授業や生徒の使用) |
コンクールやレポートで「自分の成果物」としての提出 創作や表現活動(詩・音楽・美術など)での安易な医療 定期考査やテストでの使用 |
リスク | 個人情報の漏洩 著作権侵害 |
教師の働き方改革としての活用 (業務効率化) |
教材のたたき台 挨拶文や式辞等のたたき台 部活動などの経費概算 |
チャットGPTの危険性・注意点「親が知っておくべきこと」
必ずしも正しい・適切な回答ではない
チャットGPTは、「統計的にそれらしい応答をする(ガイドラインより抜粋)」のであって、回答は正しくない場合もあります。これまでのデータから回答を導き出しているのですが、そもそも学習しているデータそのものの真偽がわかりません。SNSやインターネット上の情報には、正しくないものも当然あるわけですから、それらを学習してしまい、誤った回答が出る可能性は常にあります。
チャットGPTの年齢制限と保護者同意について
チャットGPTのアプリには年齢制限があります。実際に使用するには本人確認で誕生日を入力しますから、小学生が勝手に使うことはできません。とはいえ、厳密な年齢確認が行われているわけではないため、注意は必要です。
- ChatGPT(OpenAI社)は13歳以上、18歳未満の場合は保護者同意が必要
- Bing Chat(Microsoft社)は成年であること、未成年の場合は保護者同意が必要
- Bard(Google社)は18歳以上であることが必要
個人情報の取扱い
チャットGPTを使うためには、プロンプト(指示・質問)を出さなくてはなりません。この「指示・質問」に自分の情報をむやみにいれると、個人情報やプライバシーに関する情報が回答として出されてしまう可能性があります。極端な例ですが、子どもがチャットGPTで「わたしは◯◯小学校5年1組の女子です。同じクラスの◯◯さんが大嫌いなのですが、どうつきあったらいいですか」と聞いたらどうでしょうか。「◯◯中学2年サッカー部の△君へ、1年女子から送る初めてのLINEメッセージを書いて」と、メッセージ作成を質問したらどうでしょうか。
その回答云々よりも、問題は個人名や特定された学校名が出されたことで、これをAIが学んでしまうことです。結果として、何かの際にAIが回答のひとつとして「学校名や個人名」を出す可能性はゼロではありません。
著作権侵害につながるリスク
既に海外ではチャットGPTによる著作権侵害の訴訟はいくつも起きています。使い方によっては知らずと著作権を侵害している可能性は捨てきれません。情報モラルは学校でも学びますが、日頃から家庭内でも折に触れて「これってどうなんだろうね?著作権の問題にならないのかな?」と親子で意識したいですね。
AIで作成したものが「自分が作成した」と勘違いしていないか
ガイドラインでも、チャットGPTが作成したものをそのまま、コンクールやレポートに提出してはいけないとなっています。
しかし、まだまだ社会経験の少ない子どもにとって、回答を丸写しにしたものであっても書いているうちに、ほんの少し言葉を足しただけで「これは自分が書いたもの」という認識をしてしまう、錯覚してしまう可能性があります。
子どもが自ら考えなくなってしまう懸念
創造する力は、本来、子どもが持つ貴い才能です。自分で考え、考えをまとめ、相手に伝えようと四苦八苦する中で学ぶ経験値をむやみに奪うことになるかもしれない、そのリスクは実はとても大きいのかもしれません。
チャットGPTを子どもが使う時のポイント4つ
これからはチャットGPTをはじめとした生成AIを、一概に「使用禁止」と決めつけるのは難しくなるでしょう。それよりも、いかに適切に、そして上手に活用できるかが重要になります。子どもへの指導は教育現場にお任せというわけにはいきませんね。
子どもがチャットGPTや生成AIを使用する時のポイント4つ
- 最初に親が実際に使用してみる
- 親と一緒に使う、あるいは親が何をしているかを把握した上で使用させる
- メリットだけでなく、必ずデメリットとリスクについてきちんと認識させる
- プロンプトの機械学習をさせないように設定をする
まずは親が一度、チャットGPTを使ってみましょう。子どもと一緒に試してみてもいいかもしれません。
その上で、子どもがもしチャットGPTを使うのであれば、低年齢であれば親がそばにいて一緒に行う、少なくとも何にどう使っているのかを親が把握していることが重要です。いずれにしても年齢制限があるのですから、規約を守ることが大前提です。
チャットGPTのリスクをしっかり伝え、メリットと同時にデメリットも話し合いたいですね。子どもにとっては興味のある話題なので、これをきっかけにして「ネットリテラシー」「情報リテラシー」(インターネットやSNSの使い方・注意点・リスクなど)全般について、しっかり話し合うとよいのではないでしょうか。
チャットGPTを使用する場合には、プロンプト「指示・質問」を学習させない設定にすることも可能なアプリが多いので、最初に親が設定しておきましょう。
子どもたちへの影響「フィルターバブルとエコーチェンバー」
ガイドラインには、「フィルターバブル現象」と「エコーチェンバー現象」についても触れられています。奥が深い話なのですが、こうした現象に子どもが陥る可能性があることも、親が知っておきたいことです。自分の好む情報だけに囲まれるリスク(フィルターバブル現象)
スマホやパソコンで検索をしたりクリックをすると、AIは履歴を学習します。そして、その人の思考や趣向に合った情報がどんどん流されてきます。わたしがダイエットサプリを一度でも検索すると、他のサイトを見ているのに「これで痩せる!」みたいな記事や広告がどんどん出てくるわけですね~
偏りのない知識や情報を得られるように、子どもたちにさまざまな「世界」を見せたいですね。
たとえばネットショップで本を購入するのはとても便利です。しかし、購入履歴から「好みに合う本ばかりが紹介される」ようになり、選択肢が狭まります。時には本屋さんへ行き、ブラブラと親子で歩きながら「これも面白そう」と選ぶだけでも、違った世界への入口に出会えます。
ぜひ、子どもの好奇心を刺激してあげてください。
夏休みや冬休みには、さまざまなワークショップや体験会がありますから、これまでやったことがないスポーツや工作、プログラミングに挑戦してみるのもいいですね。あるいは親子で美術や音楽などに触れてみる機会を作ってみてはいかがでしょうか。
知らなかった世界、初めての世界に触れることで、自分の中に眠っている才能や興味が一気に芽生えるかもしれませんから!
閉ざされた空間で同じような意見が反響して大きくなるリスク(エコーチェンバー現象)
エコーチェンバーとは、閉鎖的な空間で音が反響することです。SNSなどで同じ価値観の人たちだけが集まるコミュニティに閉じこもったような状態になると、その閉じ込められた空間内の「考え」が「すべての真実」だと思ってしまうかもしれないのです。
ひとつの思考に偏ってしまい、他の意見に耳を貸さなくなるのは良い傾向とは言えません。
おとなでも怖い話ですが、これが何でもスポンジのように吸収する子どもに起きると考えると、親としてどのように子どもを導いていくべきか、デジタル社会を泳ぎ切る力をどう育めばいいのか、非常に複雑に思うところです。
チャットGPTと子ども「親」ができることとは
チャットGPTはまるでそこに人がいるように答えてくれますが、あくまでツールです。チャットGPTの正しい使い方や仕組みを知ることで初めて「活用」できるものです。デジタルのすさまじい変化に、親としてはついていけない思いもします。
わたし達「親」は、そもそもプログラミングを学校の授業で学んでいない世代です。スマホやインターネットは当たり前に使っていても、デジタルについて系統立てて知る機会がないまま、今に至っています。子どもたちを取り巻くテクノロジーやデジタルの急速な変化に戸惑うこともありますね。
だからこそ、親も新たなテクノロジーに関心を持ち、知って、家庭内でもいろいろな話題に触れることが大切ではないでしょうか。
まずは「ねぇ、チャットGPTって知ってる?話題になってるよね」と親子で話し合ってみませんか?
参考:「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」の 作成について(通知)/文部科学省 初等中等教育局
チャットGPTのアプリは入れてるよ、勉強には使ったことがないけど、みんなで遊んでみたことはある。